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分子神経科学研究者、兼、麻酔科医、兼、ランナー、兼、作曲家 の随想録(ひとりごと)です。

職業的政治家は必要ない

 2017年10月現在、日本の政界は空前の大変革、危機、異常事態を迎えています。それはまるで、1600年の天下分け目の大戦、関ヶ原の戦いの直前のようなもの。諸国大名は、よほどの国力や大義をもたぬ限り、「石田につくか、徳川につくか」という命題に迫られ、右往左往していました。特に、これまで政権時代の失策と衰退、分裂、そして合流を繰り返すことによって、野党第一党という地位と信頼を完全に失った民進党の情勢には、醜態にすぎて直視することができない状態となっています。
 民進党のわりと偉いポジションの者が、記者会見で次のようなことを話していました、確か、小池百合子東京都知事が代表を兼務する希望の党による、民進党議員の公認を確約するための折衝を前にしてのものであったと思います。「議員にも生活があるわけですから、しっかりと全員の公認を取り付けられるよう取り組んで参ります」といったような発言でした。
 …??議員の生活と、希望の党の公認とに、何の因果関係があるのか?そもそも、希望の党の公認がもらえなければ、民進党として出馬すればよいのでは?それはつまり、民進党として出馬しても勝ち目がない、とすでに確信しているからでは?自分が政治信念をもってその党に所属しているはずの議員が、なんとその主義や大義がすでに国民にとって廃れており信任されないことを自覚しているということと、明日の自分の生活のために「ちょっと政治信念が似ている政党からなんとかして公認をもらって、食いつなごう」という姿勢でいることが、私にとってはとても奇妙であり、情けなくもあり、滑稽にも思えてなりませんでした。
 国会議員とは、自らの人生や生活をある程度犠牲にして、まさに公僕として国家運営のために死力を尽くす、スペインの哲学者オルテガが定義した「エリート」そのものであると私は今でも信じておりますし、実際にそのように活動している先輩を存じ上げています。しかし、上記のごとき発言を聞いてしまうと、「いやいや、議員だって自分の生活がありますから」といった言い訳がましい姿勢が垣間見えてしまい、これぞ職業的政治家の典型です。確かに、政治家も選挙で当選できなければただの無職の人となってしまい、明日からの生活は相当厳しいのでしょう、いったいどのような職で食いつなぐのかはわかりません。しかし、国民にキャッチーかつトレンディーな政党の公認をもらわなければ当選確率が下がるから、という理由で、自らの政治信念からずれるけど少しだけ似ている政党にすり寄ってしまう姿勢は、国民が望む政治家の姿からはほど遠いものです。そもそも、政治信念というのは、マズローが定義するように人間が抱く欲求段階において相当に高次のものである自己実現に近いところにあります。なぜなら政治信念に絶対的な正解など存在せず、「何がもっとも最適となる解であるのかを探し求め続けること」のみが重要なものだからです。この高次の欲求は、当然最も低い欲求である生存や安全が完全に保証されていなければおよそ到達しえないものでしょう。にもかかわらず、さきほどの民進党議員の姿勢では、高次の欲求を満たすふりをしておきながら、実は生存や安全を獲得するための活動として選挙を捉えていると思わざるを得ません。よく選挙活動でみられる、「$$$$$, この選挙戦を必死に戦って参ります」と街宣車が走り回る光景、ここには、「(国民の皆様の生活をよりよいものにするために、自らの人生を賭して)必死に戦って参ります」というロジックであると我々有権者は暗黙の了解で理解しているからこそ、応援しようと思えるのです。しかし、「(この選挙戦に落選したらご飯が食べていけないので)必死に戦って参ります」というロジックであったと仮にするならば、誰がこの候補者を応援するのでしょう?私でしたら、「知らねーよ」と言い返すでしょう、まあ就活中の学生さんには「頑張れ!応援してるぞ!」となりますが。候補者の明日の生活のために選挙戦を行うのであれば、はっきりいってその方々は必要ではありません。エリートのわきまえを失った国会議員など、インターネット上で行う国民全体による直接選挙で十分です、彼らの賃金や政党助成金などを省くことができれば多くの財源確保ともなります。
 エリートを失った国会議員は職業的政治家に陥ることは不可避です。一方、手に職を持ち、例え零細であろうとも生活の基盤を確保できる政治家はそのような愚かな状態になる可能性は低くなります、もちろん利権や社会的地位などが絡んでこなければの話ですが。学問の世界においても全く同じことが言えると思いますが、金銭、利権、地位などが関わらない状態でのみ、学者も政治家も純粋な高みを目指すことができるのでしょう。他人事と考えずに、自分への戒めとして、今回の民進党議員の姿勢を捉えてみたいと思いました。