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分子神経科学研究者、兼、麻酔科医、兼、ランナー、兼、作曲家 の随想録(ひとりごと)です。

急な変化は正しいか?

 先日、55年体制と呼ばれた自民党第一党の時代が幕を閉じ、民主党衆議院の圧倒的多数を
占め政権交代が実現するに至りました。世界的な不況と、日本国内の治安、貧困格差、そして
決定的な自民党不信(首相のみが不信がられていたというわけではないと思いますが)に
よって、ここまで大きく世論が逆転するものなのかと、1人の有権者として驚きを禁じ得ません
でした。その中で、マスコミによる政権交代にまつわる報道が国民に美人投票を知らず知らずの
うちにさせしめたのはほぼ間違いないと思われますが。

 高校か、大学か、座学で私は世の中の一票というものは、非常に保守的というか固着的なもので、
自民党は農業工業、民主党は公務員、といった大きな枠組みによるパトロンが政党の背後に
存在しているのだ、それがひとつの自動的な緩衝材となって過激すぎる政局変動を抑止する
機能も果たす、といったような趣旨のことを教わっていたので、今回の政権交代はその
教えを大きく揺るがすものになりました。実際のところ、どうなんでしょうかね?

 大きな枠組みの結束が、1億3千万分の1の意思の結集に破れた、ということなのか。
または、大きな枠組みが崩壊したのか、そもそも枠組みの方針が変わったのか。

 急激に制度やシステムが変わる。聞こえはとてもいいです、今までの後ろ暗い情勢が、
もしかしたら突然明るい未来になるかもしれない。そう期待させてくれるものに、
誰しも惹かれると思います。

 しかし、実際に何かが変わる、または何かが育っていったり改善されていくというのは、
デジタルなものとは到底思えません。よく、テレビゲームのRPGや野球ゲームで、ある瞬間にレベルが
アップする、突然呪文を唱えることができるようになったり、突然盗塁がうまくなったりする
という現象を目の当たりしますが、実際にはまずあり得ない話です。組織でも人間でも、
成長や変化というのはあくまでひとつひとつのコツコツとした努力や投資の積み重ねが
あって、はじめて少しずつ生じるものです。おそらく、行政や立法府も同じだと思います。

 政党が変わった、高速道路を突然無料化した、進行中の公共工事を突然中止した、地方への
交付金の予算を期中に見直す。制度というものは紙の上でハードなものですが、政策というものは
現在もaliveなもので、生もの、ソフトなものです。生ものに突然ハードがその方向を
まったく違う方向に向かわせるというのは、国をひとつの生命体として考えるならば、
ある意味で大きなクライシスであり、それこそ生命活動である産業や自治体や生活は
大きく揺るがされるものとなるでしょう。

 Drasticな変革というのは、急激にあらぬ方向へ転換することではなく、長い年月をかけて
結果的にまったく新たな方向へスムーズに移行していくというものだと思います。近視眼的
に結果を求めたがるのが国民の性なので、有権者の心が離れないようにわかりやすい大変革を
行うほうが受けがよい、だからこそそのようなインセンティブが生じるのは致し方のないこと
でしょうが、このことは国民含め為政者は心に留めておく必要があると思います。

 政治のような大きなスパンだけでなく、例えば建物の中の禁煙の全面化などの
身近な話もまったく同じことがいえると思います。

 人間も組織も、テレビゲームの中のようなデジタルな変化、成長が起きれば、
どんなに楽しいことか…。この参考書を読めば突然偏差値が20あがったり、あの
レーニングをしたらピッチャーの球速が10あがったり、このスタジアムを
建設したら行楽客が5万人増えたり。ゲームが与えてくれる夢も、功罪さまざまですね。