熱く楽しく挑戦する!

分子神経科学研究者、兼、麻酔科医、兼、ランナー、兼、作曲家 の随想録(ひとりごと)です。

十年一節

 先日、渋谷のNHKセンターに遊びに行ってきました。
NHKアーカイブスというサービスが始まったのは知っていたのですが、ネットでの
有料サービスだけでなく、センターで無料で視聴することができるということで、
ようやく念願を叶えることができました。ブースが8つくらい用意されていて、
それぞれに巨大なモニターと操作用のパソコンが置いてあり、1人1人が思い思いの
番組を観て、その世界に耽ることができる、とても素晴らしいサービスだと思います。
ただ、一日二時間までというのが…。まあ、独占する輩を防止するためだと思いますので
仕方ないのですが。

 私は、かねてから是非観たかった番組があります。「あの人に会いたい」という、10分の
番組で、昭和を生きた偉人の生涯と貴重な肉声を交えてメッセージとしたものです。
その中でも、私が人生の師として尊敬する、西堀栄三郎の回が視聴可能ということをネット
で調べてあったので、その10分のためにNHKまではせ参じたという次第です。

 西堀さんについては、WikipediaYoutubeなどを参考にしていただきたいと思いますが、
天才的な技術者にして探検のカリスマ、さらに雪山賛歌の作詞者でもある、非常に多岐に
渡る分野で活躍した方です。

 冒頭の言葉、十年一節という言葉。十年間ごとに取り組む課題を変えていくことで、
それぞれの分野で活躍することができるという西堀さん独特の考え方です。
逆にいえば、十年でその課題を含む分野について極めなければならない、ということです。
従って、のんびりとはしていられない、十年で結果を出すために絶えずプログレスをする
ようになる、それが躍進の秘訣となる。

 私も、専門性というものについてこれまでずっと考えてきました。とかく専門性というと、
その道のことは誰よりも強いから、それ以外の分野は知らなくて良い、むしろ知らなくて
当然というような暗黙のimplicationがあるように思われてなりません。または、自分が
かかずらっている分野について局所最適ではあるが、それ以外の領域を含めて考えると
実は全体不適となってしまう、そのようなものでも、専門家にとってみれば完全な善なのだ。
このような考え方にどうしても私は納得することができずにいました。このことは、
スペインの哲学者オルテガも、「大衆の存在をprevalentなものにした最たる者は科学者である」
とはっきりと述べています。自分の分野さえ発展すれば、他はどうでもよい、原子力の技術を
開発できれば、核戦争が生じたとしても私には関係ない、そんな感じだと思います。

 西堀さんは、専門バカの危険性を指摘した上で(著書、技士道十五箇条)、専門を十年一節で
多岐にわたらせることによって、多くの分野を専門とすることができるようになったのです。
電気科学の技術者、統計的品質管理、原子力開発、極地での過ごし方、海洋研究。私には、
それぞれがまったく別の取り組みであるようにはまったく思えず、それまでの取り組みがあった
からこそ、次の十年で取り組む課題に対してより広い視点から創造性を発揮することができた
のだろうと確信しています。

 私も、人生の中で取り組みたい課題はたくさんあります。医療の分野では、集中治療を中心として
患者さんの入退院の状態管理、辺境や過酷な現場で働く人の安全や健康に役立つ技術の開発、医療に
まつわる法学、生命哲学など。経営の分野では、医学的な視点を含めた院内活動の費用対効果の分析
や医療関係者のモチベーションメイキング、市中病院への啓発など。または、科学の是非や捏造問題
にまつわる科学哲学についても言及してみたい。挙げれば限りがありません。

 この西堀さんの言葉を体現できることができれば、私も世の中に還元することができるのではないか
と思って、頑張りたいです。21世紀の人間も20世紀の先輩方と同じくらいのアクティビティを発揮して
頑張りたいですね!