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分子神経科学研究者、兼、麻酔科医、兼、ランナー、兼、作曲家 の随想録(ひとりごと)です。

見えない機械

 藤正巌の著書、マイクロマシンの可能性を述べた1994年出版の本。
細胞をひとつの精巧な機械と見なす動きは、物理学者シュレディンガー
の「生命とは何か」(岩波文庫)で述べられた生物物理学の興隆を源流として
生じてきたと思われます。我々が扱っているいわゆる機械、自動車やコンピュータ
などのマクロマシンと、細胞レベルまたはナノレベルの機械では、機械の原理に
関わる物理学的影響、例えば水の表面張力などの影響の大きさに明らかな
違いがあり、ただ小さいものを作る精密技術さえあれば可能となるわけでは
ないということが書かれています。

 最後の章で印象的だった言葉。
「人の作り出した知識で自分を飾っている者は、自分で苦労して獲得した
知識を持つ者の価値を知ることはできない」ということが、私が存在する
理由だ。

 なにも、人間誰しも実験や研究をがっつり行わなければ、本質を理解
することはできない、という意味ではないと思います。他の人から聞いた
ことや、世論といったrelevantな意見といったものを鵜呑みにすることで
満足してしまう、それらを疑ってみたり検証してみたりということを
しない人と、一方で科学的な検証と論証をすることはできないとしても、
あくまで自分の身体を以て経験したことを大切にすることができる人。

 その違いを述べているのだと思われます。

 私の尊敬する西堀栄三郎も、どんな職業であろうと多くの観察と
実証を行うことで研究、新たな発見をすることはできる、と述べています。

 どんな形であれ、何か新しい発見を追求する姿勢というものが、
進化を続けてきた生命の本質の一つなのかもしれません。