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分子神経科学研究者、兼、麻酔科医、兼、ランナー、兼、作曲家 の随想録(ひとりごと)です。

小さな組織を担うとは

 研究室のような小さな組織についての愚見を述べさせていただきたいと思います。
 組織が維持存続されるためには、ヒト、モノ、カネの資源とノウハウが維持される必要があることは間違いありません。特に、研究という超労働集約的な仕事においては、人的資源こそがもっとも重要なものであると考えます。パーマネントな立場である重役社員を除いては学生やインターン、アルバイトや派遣社員、そして部署を異動することが多い若手社員などが年々代わる代わるしながら、ラボのテーマが(資源が枯渇するまでは)進行していく、それが研究室だと思います。
 まず、ヒトについては、人数が組織の仕事量を規定する大きなファクターであることは否定できないでしょうから、毎年一定のヒトが組織を去って行く以上、出納を維持するためにはニューカマーは当然必要となります。
 モノ、カネについては、特に研究室においては、現在の国策が変わらない限り、国、法人、企業などからの研究費を獲得することによってのみ資源は継続されていくものです。獲得できるか否かは、申請書などのプレゼンテーションスキルにも依存するかもしれませんが、大きくは業績によるところが大きいでしょう。結果こそがモノとカネのバランスを決める、これは研究室のみならず多くの法人や会社も同じはずです。
 ノウハウについては、職場や研究室の各種機器類、工場のレイアウトなど半永久的に残るものもあるでしょうが、各作業マニュアルや工程ごとのTIPS、または仕事に対するメンタリティの持ち方や動機づけといったソフト面ではやはり先輩から後輩、教員から学生への口頭伝承によるバトンリレーが最も重要なものになるであろうと考えます。
 以上を鑑みれば、ヒトの資源が確保されなければ、組織の業績も安定して量産することができず、結果としてモノ、カネも安定して獲得できませんし、ラボのノウハウも維持されていかなくなるでしょう。よって、私見ではありますが、研究やビジネスのマネジメントにおいては何よりもヒトが大事なのです。
 しかし、残念ながら、私がみるところ、多くの研究室のごとき小組織はヒトを確保し育てるための環境、カルチャーが醸成されているとは考えにくいです。一部の組織をみれば、当然のように先輩や教員が後輩と同じ目線で同じ実験室で教え合う光景がみられるのにも関わらず、多くの小組織にはそういったカルチャーが存在していないように感じます。教育できる医局こそが真の実力のある医局である、と、ある臨床の教授が以前に話していたのを覚えておりますが、研究室のような小組織にも同じ事が言えるのではないでしょうか、教育できる組織が実力のある組織である、と。
 また、教育のカルチャーが存在しないことだけでなく、多くの小組織は人を大事にすることができていないような空気を感じることがあります、かつて私が在籍していた組織にも同じような感覚を抱いたことがありましたが、どうもそのような何か共通したものを感じてしまうことがありました。例えば、向学心や探究心はあるにも関わらず、そのまま研究を続ける学生がほとんど残留しないこともこの裏付けといってよいでしょう、皆、追いコンなどの送別会では美しい世辞を述べて組織を後にしますが、本音では日々辛い思いをしていたのかもしれません。
 ヒトを確保する上での上記2点の問題点をクリアするためにはどうすればよいか、という話になりますが、一番簡単なのは、上記2点を問題としない人を確保することです。すなわち、教える必要もなく、さらに組織の雰囲気にまったく動じることのない人を迎えることです。しかし、それは極めて非現実的であり、おそらく現状では一流とはいえぬ小さな研究室にそういったスーパールーキーがやってくるのを期待することは極めて難しいでしょう。だとしたら、どうすればよいのか?
となると、ヒトという資源に対する考え方を見直す必要が出てくると思われます。具体的にどうすればよいのか、それは簡単なことではありませんので、教授のようなPI (principal investigator) を含めみんなで話し合いを積み重ね、少しずつアイデアを出し合い、少しずつヒトを大切にするカルチャーを作り上げていくしかないのではないかと思われます。ただでさえ、各自のテーマの仕事で手一杯な現状ですので、急激に完璧な体制を整えることは不可能です、各自が少しずつ知恵と時間と手間を出し合ってよいものを築いていこうと意識することで、物事は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
 私が自負しているのは、少なくとも私がその所属した組織で教わったことは、後輩には惜しみなく教えようということです。また、セミナーや研修、出張先で習ったことや、自分が立ち上げたプロジェクトや方法論に関するノウハウ、TIPSについても、乞われればもちろんお伝えしようと思います。
 非常に単純な話ですが、先輩から教わったことを後輩に教えなければ組織は衰退する。先輩から教わったことだけを後輩に教えれば組織は現状維持される。先輩から教わったことに加えて自分が生み出したノウハウを後輩に教えれば組織は進化する。どんな上司であれ、万が一の責任を引き受けていただきながらもその組織である程度好きなようにさせていただいている以上、先輩から教わったことを後輩に教えることは、社会人としての最低限の義なのではないかと思います。
 このように、組織や人間にとって極めて重要なことというのは、実は最も基本的で最も単純なところになるのではないか、私は多くの事象のなかでそのように感じるのです。